ここでは本音

誰も読まない前提の脳内排水ブログです

魚エンジン④(終)

前のお話

tsukimarulettuce.hatenablog.com

 

マイクロ脳珍虫

内燃機関のエンジンは、魚エンジンと違い、緻密な制御を必要とした。

 

燃料の爆発燃焼によりピストンの往復運動をさせるため、推進力に脈動が起こる。

 

坂道を自転車でこいでいるときに、ペダルを下に踏み込んだ時に一瞬加速して、すぐに下り坂方向への重力でスピードが落ちる感覚と同じだ。

 

これを避けるため、燃焼室となるシリンダー(筒)は、4~6連備えられるのが普通になった。

 

それぞれのタイミングを合わせたり、燃焼室の監視するシステムを作動させたり、とにかく内燃機関に代わってからは自動車の仕組みが大きく複雑化した。

 

それらを統合する存在が、マイクロ脳珍虫たちだ。

 

小指の爪ほどの大きさの黒い虫で、成虫になってから1年ほどの寿命を持つ。

 

羽を震わせたり、目の前のものを嚙んだりして、部品同士の信号伝達を担う役割で機械に埋め込まれることもあったし、監視センサーとして機能することもあった。

 

中国依存の自動車製造

マイクロ脳珍虫は、これまでも機器の中枢部に使われてきたが、内燃機関の登場により爆発的に需要が高まった。

 

彼らは世界中に分布するが、とくに中国に多く、個体数で言うと全世界の8割ほどが中国に生息している。

 

必然、自動車の核となる資源を手中に収めている中国は、世界での存在感を加速度的に肥大させていった。

 

新時代の必要条件ともいえる自動車。

 

これを製造するための資源が、一国に偏っているという事実が、世界の均衡を崩してしまった。

 

というのが1つ目の問題だ。

 

こんなの大したことはない、しょせん地球の上で人間という生き物だけが好き勝手に覇権争いをしているだけだ。

 

手段を選ばないとしっぺ返しも本気で来る

何より問題だったのは、マイクロ脳珍虫の捕獲に、大地をことごとく枯れさせる手法が用いられていたことだ。

 

この虫は川べりの草地を棲み処としていることが多く、なぜか塩を撒くと10分ほどで飛び立つ習性をもっている。

 

どうやら海岸に住んでいた時代の進化で獲得したもののようで、捕獲にはこの習性が利用された。

 

飛び立ったところを掃除機のようなもので吸い集めるのだが、前段の塩を撒くという行為がとんでもない悪影響を及ぼした。

 

この時多くの人類は、まだ"塩害"という言葉を知らなかった。

 

知らないからと言って、地球は許してくれない。

 

一度塩を撒かれた大地は、雑草1本さえも生えない荒野と化し、木々も草花も枯れ果てた。

 

枯れた地は自然と戻ることはなく、その影響は近くの田畑にまで深く及んだ。

 

さらに悪いことに、川の下流域にあるほかの地域、国々の川沿いまでが同じ運命をたどり、塩害は国境などお構いなく広域にわたって発現した。

 

流域に植物がなくなった川岸はもろくなり、雨が降るたび河川の氾濫が起きるようになった。

 

川の氾濫によって塩害はさらに広域に拡大し、ついには中国全土の30%が農耕不能の不毛な大地と化した。

 

流域下流の周辺国も似たような状況だった。

 

人類の繁栄は地球の衰退

私たちが生活の利便性を求める知恵は、豊かな社会を作ってきた。

 

と私は習ってきたし思い込んできた。

 

"豊か"ってどういう意味だろうか。複雑な機械を操って、建造物を作って、ほかの動物とは一線を画した人生を過ごすという意味だろうか。

 

命の危険を感じることなく生き、平均寿命が長くなったという意味だろうか。

 

そのために1日何時間も働き、100年前の人間が得る一生分の情報を1日で取り込み、日々忙しく競争しながら生きる。

 

そして地球に癒えない傷跡を残し、自分たちの身勝手のために他の動植物を蹂躙し、あまつさえ同種の人間同士で蹴落としあい、自分だけが得をしようとする。

 

これは、"豊か"な姿なのだろうか。

 

そんなのいらない。私は、峠を越えた先なんて知らなくていい。

 

生まれた漁村で、一生魚をとって暮らす。

 

サンマを食べずに何に使うって?

 

石油?そんな黒い泥どうするんだ。

 

思考力を進化させてしまった人間という動物、もっとも哀れな生き物なのかもしれない。

 

リンゴを食べた原罪への贖いが、いま私たちに課せられているのだろうか。